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雪、都市、自然、そして「睡蓮」へ
モネの風景画-その変遷と、同時代の芸術との共鳴

アーティゾン美術館にて、モネ没後100年「クロード・モネ -風景への問いかけ」と「カタリウム」展が開催

内覧会・記者発表会レポート

アーティゾン美術館で開催中の展覧会 モネ没後100年「クロード・モネ —風景への問いかけ」展示風景
アーティゾン美術館で開催中の展覧会 モネ没後100年「クロード・モネ —風景への問いかけ」展示風景

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言わずと知れた印象派の巨匠クロード・モネ(1840–1926)。そのモネの風景画に焦点を当てた展覧会、モネ没後100年「クロード・モネ —風景への問いかけ」がアーティゾン美術館で開幕した。本展は元々、同館が開館した2020年に開催されるはずだった。記念すべき年の展覧会のテーマにモネを選ぶことは、同館がいかにモネという画家を重視しているかの現れであったが、新型コロナウイルスなどの影響で展覧会は2度延期となった。関係者たちの無念な気持ちは想像に難くないが、その思いは途切れることなく、絶好の機会を得ることとなる。

それが今年2026年だ。何を隠そう、今年はモネの没後100年という節目の年なのだ。本展ではモネの作品41点を含む、オルセー美術館所蔵の約90点を中心に、モネが描いた風景の「場所」に注目し、その意義をひも解く。中には日本初公開のモネ作品もあり、まだ知らない「モネ」に出会う機会となる。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
モネ没後100年「クロード・モネ -風景への問いかけ」
開催美術館:アーティゾン美術館
開催期間:2026年2月7日(土)〜5月24日(日)

風景画家・モネの誕生

展覧会は、まず「風景画家・モネ」が誕生した背景を追う。そのためには、海景画家として知られるウジェーヌ・ブーダンの存在が欠かせない。それまで上流社会のカリカチュア(人物戯画)を描いていたモネは、ブーダンとの出会いで「自然を愛すること」に目覚めたのだ。

クロード・モネ《ノルマンディーの農場》1863年頃 油彩・カンヴァス オルセー美術館
クロード・モネ《ノルマンディーの農場》1863年頃 油彩・カンヴァス オルセー美術館
ウジェーヌ・ブーダン《洗濯女のいる風景》1873年 油彩・カンヴァス カーン美術館(オルセー美術館からの寄託)
ウジェーヌ・ブーダン《洗濯女のいる風景》1873年 油彩・カンヴァス カーン美術館(オルセー美術館からの寄託)

また若きモネは、ブーダンの他に、バルビゾン村で農村風景などを主題に制作をした「バルビゾン派」の画家たちとも交流し、自然描写や戸外制作という手法など、風景画家としての土壌を育んでいった。本展はコローやシスレー、ドービニーといった同時代の画家たちの作品も展示され、当時の芸術家たちに共有されていた「自然への眼差し」が感じられる。

展示風景
展示風景

変わりゆく都市の風景を見つめる

豊かな自然の風景を愛する一方で、工業が発展し近代化していく街の変化もまた、モネにとって重要な主題となった。1871年12月から78年1月までの約6年をパリ近郊のアルジャントゥイユで過ごしたモネは、そこで工業化が進み、また鉄道の発達によって行楽地となったアルジャントゥイユの姿を多く描いた。

クロード・モネ《アルジャントゥイユのレガッタ》 1872年頃 油彩・カンヴァス オルセー美術館
クロード・モネ《アルジャントゥイユのレガッタ》 1872年頃 油彩・カンヴァス オルセー美術館

たとえば、《アルジャントゥイユのレガッタ》など、川辺にボートが浮かぶ光景を度々描いている。当時アルジャントゥイユは、ボート遊びの場所として親しまれていたのだ。「レジャー」が急速に誕生した時代という意味では、こうしたボートが並ぶ川辺の風景は「新しい風景」とも言えるだろう。

他にも、モネの代表作の一つである《サン゠ラザール駅》や、労働者を描いた《石炭の積み下ろし》などが展示されており、自然を愛すると同時に、近代化する都市に対しても、モネは拒絶するのではなく、その変化を多様な視点から見つめていたことが分かる。

クロード・モネ《サン゠ラザール駅》 1877年 油彩・カンヴァス オルセー美術館
クロード・モネ《サン゠ラザール駅》 1877年 油彩・カンヴァス オルセー美術館
クロード・モネ《 石炭の積み下ろし》 1875年頃 油彩・カンヴァス オルセー美術館
モネには珍しい労働者を描いた作品。手前で荷物を運ぶ人物をシルエットで描く手法には浮世絵の影響も指摘されている。
クロード・モネ《 石炭の積み下ろし》 1875年頃 油彩・カンヴァス オルセー美術館
モネには珍しい労働者を描いた作品。手前で荷物を運ぶ人物をシルエットで描く手法には浮世絵の影響も指摘されている。

「雪」の探求、「氷塊」のイメージ

モネの風景画において重要なモチーフの一つであったのが「雪」。モネや印象派の画家たちにとって、雪は単なる「白」ではない。陽の光、影、周囲のものや出来事によって幾通りにも色を変え、その形も刻一刻と変化する。移ろいゆく光景の一瞬を捉えようとする彼らにとって、これほど意欲をそそられるモチーフはないだろう。

クロード・モネ《かささぎ》 1868–69年 油彩・カンヴァス オルセー美術館
クロード・モネ《かささぎ》 1868–69年 油彩・カンヴァス オルセー美術館

多くの雪景色の作品の中でも特に注目したいのが、修復後初公開となる《かささぎ》だ。降り積もった雪に、朝日だろうか、暖かい陽の光が差し込み、輝くような雪景色が広がる。一面の銀世界の中で、柵に止まる1羽の黒いかささぎの姿が、鑑賞者の眼を引き付ける。

雪は、ほのかなピンク、あるいは青や薄紫といった色を織り交ぜ、反射する光の煌めき、雪に落ちる影を見事に表現している。色だけでなく塗り方にも注目すると、手前部分は絵具を塗り重ねて立体的に表し、遠景の雪は筆を横に伸ばし滑らかに描いており、限られた色調の画面でも、質感の違い、奥行きが十分に表現されている。

《かささぎ》はモネが20代後半に描いた作品だが、四季折々で姿を変える自然風景は、その後のモネの制作においても重要なテーマであり続ける。経済的に困窮したモネはアルジャントゥイユを離れ、パリからさらに北西に約60キロ離れたヴェトゥイユという小さな村に家族と共に移り住んだ。セーヌ川が走るその町では、約3年の間に100点ほどの作品を描いており、中にはセーヌ川に流れ着く解氷を描いた作品も多い。

右:クロード・モネ《氷塊》 1880年 油彩・カンヴァス オルセー美術館
左:クロード・モネ《死の床のカミーユ》 1879年 油彩・カンヴァス オルセー美術館
右:クロード・モネ《氷塊》 1880年 油彩・カンヴァス オルセー美術館
左:クロード・モネ《死の床のカミーユ》 1879年 油彩・カンヴァス オルセー美術館

この頃に亡くなった妻のカミーユを描いた《死の床のカミーユ》では、病床の妻の姿と、解氷のイメージが重なるようで、画家の悲痛な哀しみが痛いほどに伝わる。画家の心情が画面に溢れ出る作品として、特別な作品だ。

繰り返し描く、“印象”を描く

展示風景
展示風景

50代でジヴェルニーに居を構えたモネは、やがて連作を手掛け始めた。すでに同じモチーフを繰り返し描いてはいたが、その「反復」にこそ“本当の自然の姿を捉える”ための鍵があると考え、より意識的に取り組むようになる。

また1890年代より、自然の「風景そのもの」を描くのではなく、その自然が醸し出す「印象」へと、モネの関心は移っていく。ロンドンの街を覆う霧は、モネに多くのインスピレーションを与えたようで、建築物が霧でぼんやりと霞んで見える光景をいくつも描いている。建築物も、空も川の水も、画家自身の感情も、大気中の空気に溶け込み渾然一体となっている様子は、晩年期の睡蓮の連作にも通じる。

ジヴェルニーの庭―理想の風景

右:クロード・モネ《睡蓮の池》 1907年 油彩・カンヴァス 石橋財団アーティゾン美術館
左:クロード・モネ《睡蓮》 1907年 油彩・カンヴァス 和泉市久保惣記念美術館 (展示期間:2/7–4/5)
右:クロード・モネ《睡蓮の池》 1907年 油彩・カンヴァス 石橋財団アーティゾン美術館
左:クロード・モネ《睡蓮》 1907年 油彩・カンヴァス 和泉市久保惣記念美術館 (展示期間:2/7–4/5)

そして、モネはジヴェルニーで土地を購入し、周知のように自身の理想とする「庭」を作った。画家の代名詞となる「睡蓮の池」だ。1900年から最晩年の1926年までの間に描かれ450点のうち300点、つまり晩年期の4分の3がこの「水の庭」あるいは庭の水生植物が主題となっている。

晩年期の2作品《睡蓮》と《睡蓮、柳の反映》の前には1つずつソファが置かれ、モネが生涯の最後にたどり着いた風景にじっくりと向き合うことができる。
晩年期の2作品《睡蓮》と《睡蓮、柳の反映》の前には1つずつソファが置かれ、モネが生涯の最後にたどり着いた風景にじっくりと向き合うことができる。

最晩年の作品は、もはや抽象画と言っても良いほどに、写実性からは離れていく。画面の四隅には塗り残しも見えるが、それによって、かえって描かれている世界の中に引き込まれていくような奥行きさえ感じ、幻想的な世界が眼前に現れる。

ジャポニスム、写真、ガレ―モネの周辺の芸術

アンリ・ランベール  皿「ランベール゠ルソー」セット 1873–75年 ファイアンス焼、印刷、彩色 オルセー美術館
アンリ・ランベール  皿「ランベール゠ルソー」セット 1873–75年 ファイアンス焼、印刷、彩色 オルセー美術館

本展は、モネの風景画を時代と拠点とした場所を軸にたどると同時に、モネが影響を受けたジャポニスム、あるいは同時代の写真芸術や、エミール・ガレなどの工芸作品を展示し、モネの周辺の芸術に目を向けている。

展示風景
展示風景

その中でも、特に同時代の写真芸術は重点的に紹介されている。印象派の画家たちが自然の光の移ろいに目を向けたように、写真家たちの中にも緑豊かな森、光の移ろい、広大な海の光景に目を向けた者たちが現われた。たとえばギュスターヴ・ル・グレイによる海の写真は、ブーダンの海景画にも通じる。

エティエンヌ・クレマンテルの写真の展示風景
下には、写真作品のネガフィルムが置かれている。写真を引き伸ばしてプリントした完成作品(プリント)が展示されている。
エティエンヌ・クレマンテルの写真の展示風景
下には、写真作品のネガフィルムが置かれている。写真を引き伸ばしてプリントした完成作品(プリント)が展示されている。

モネが写真から影響を受けたということは指摘されていないが、モネの風景画に通じる詩的な情緒が溢れる風景写真を撮る写真家も登場しており、ジャンルを超えて、両者が風景に見出した美は共鳴する。また、本展ではモネと交友を深めた政治家エティエンヌ・クレマンテルが撮影した、ジヴェルニーの庭に佇むモネを写した貴重な写真も展示され、モネと写真の接点を紹介する。

展示風景
展示風景

さらにエミール・ガレやドーム兄弟など、同時代の工芸家たちの作品との共演の空間は、実に幻想的だ。彼らも森や海、植物や生き物をモチーフに多くの作品を作った。その豊饒で誌的な作品の数々と、写実を超えて理想郷のような、一種の幻想風景へと昇華されたモネの睡蓮の池の作品。ありそうでなかった夢の共演は、特別な感動をもたらす。

展示風景
展示風景

そして、最後は現代アーティストのアンジュ・レッチア氏による映像作品《(D’) après Monet(モネに倣って)》で展覧会は締め括られる。モネが作り出した「風景」は、時を超えて多くの人の心を震わせ、新しい表現の種となり、豊かな彩りを与え続けているのである。

アンジュ ・レッチア 《(D’) après Monet(モネに倣って)》  2020年 映像
アンジュ ・レッチア 《(D’) après Monet(モネに倣って)》 2020年 映像

美術が“語る”言葉に耳を傾ける「カタリウム」展

美術館では、モネ展の他に4階では「カタリウム」展が開催されている。この不思議なタイトルは、「語り」と、空間を意味する「リウム(-airum)」を組み合わせた造語だ。

《洛中洛外図屛風》 江戸時代 17世紀 紙本金地著色  石橋財団アーティゾン美術館 【展示期間:2/7–4/2】
《洛中洛外図屛風》 江戸時代 17世紀 紙本金地著色  石橋財団アーティゾン美術館 【展示期間:2/7–4/2】
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「カタリウム」
開催美術館:アーティゾン美術館
開催期間:2026年2月7日(土)〜5月24日(日)

美術館は「静かに作品を観る場所」とイメージされているが、本来、その作品があった場所にはもっと「語り」があったのではないか。そんな思いから、本展の展示空間は「作品について語る」場所として、また「作品が語りかけてくるもの」に耳を澄ます場所になっている。

セクション2「ある時の神話」展示風景
古事記などに記される「海幸山幸」の神話に対して、青木繁、小杉未醒、今村紫紅の3人の表現を見比べる。
セクション2「ある時の神話」展示風景
古事記などに記される「海幸山幸」の神話に対して、青木繁、小杉未醒、今村紫紅の3人の表現を見比べる。

作品が語りかけてくる言葉に向かうために、作品は一般的な展覧会に比べて、ぐっと展示作品が限られている。本展は、「屛風を前に」「ある時の神話」「一行の詩のためには…」「後の世に」「断片が語るもの」の5つのセクションに分かれ、日本の中・近世の絵画や古筆切、青木繁や小杉未醒といった近代洋画家、ベン・シャーンと、時代・分野も多岐にわたる。

ベン・シャーン《一行の詩のためには… リルケ『マルテの手記』より)》展示風景
ベン・シャーン《一行の詩のためには… リルケ『マルテの手記』より)》展示風景
セクション5「断片が語るもの」展示風景【展示期間:2/7-2/26】
セクション5「断片が語るもの」展示風景【展示期間:2/7-2/26】

たとえばセクション5「断片が語るもの」では、《平次物語絵巻》とその断簡が併せて展示されていた(展示期間:2/7-2/26)。原本の絵と断片を比較しながら見ることができる。大胆な切り取りにより、絵巻とはまた違う印象を与える断片の魅力が際立つ。断片を見てどんな場面か想像して、絵幕を見て見たり、絵巻と断片でどんな風に印象が違うか語り合ってみたり、ぜひとも作品の語るものを感じ取り、その感じたことを語ってほしい。

展覧会ではついつい、たくさんの作品を目で追うばかりになり、「どう描かれているのか」あるいは「自分がどう感じているか」ということに向き合いきれなかったという経験もあるだろう。本展では、そうした“語り”かけてくるものを、じっくりとすくい取る、そんな時間にしてほしい。

※本展では、期間中に大幅に作品の展示替えが行われる。展示の詳細については美術館の公式HPを確認ください。

アーティゾン美術館外観
アーティゾン美術館外観
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
アーティゾン美術館|ARTIZON MUSEUM
104-0031 東京都中央区京橋1-7-2
開館時間:10:00〜18:00(最終入館時間 17:30)
会期中休館日:3月16日(月)、4月13日(月)、5月11日(月)

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