富士を愛した画家10人の
渾身の富士15点を堪能する
特集展示「富士山 花と雲と湖と」が、半蔵門ミュージアムにて2026年5月10日(日)まで開催

手前:岡信孝《紅梅富士》紙本着色 1990年代
東京・半蔵門ミュージアムで、特集展示「富士山 花と雲と湖と」が開幕した。日本を象徴する富士、その堂々たる姿は、古来人々の心を引き付け、四季の移ろいと共に様々な姿で描かれてきた。本展では美術館が所蔵する作品の内、10人の作家が描いた富士山の作品が展示されている。展示作品は全15点と小規模な展覧会だが、その見ごたえは侮れない。
- 美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
- 特集展示「富士山 花と雲と湖と」
開催美術館:半蔵門ミュージアム
開催期間:2026年1月17日(土)〜5月10日(日)
展覧会のきっかけとなった片岡球子の富士
まず最初に紹介したいのは、ポスターなどでメインビジュアルとして用いられている片岡球子《花に囲まれし富士》だ。というのも、本展を企画した学芸員・岡崎寛徳氏曰く、「収蔵庫でこの作品を見つけて、“この作品を展示して観てもらいたい”という思いから展示を企画した。本作は既存の図録などには記録がなく、おそらく初公開ではないか」とのことだ。

真っ赤な輪郭線で描かれた富士が、観る者に強烈なインパクトを与える。またその富士を飾るかのように、牡丹、梅、桜と様々な花が富士の力強さに負けず劣らない勢いで華やかに咲き誇る。球子らしい力強い筆遣いと鮮やかな色彩で、小ぶりな画面の中にエネルギーが満ち満ちている。
「富士の画家」ともいうべき横山大観
展示は、富士山を多く描いたことでも知られる日本画家・横山大観の《霊峰不二》で幕を開ける。「横山大観の富士で始まり、まずは(展示作家のうち)文化勲章の授章者である横山大観、洋画家の田崎廣助、そして片岡球子の作品を見せたかった」(岡崎氏)。

手前に三保の松原を描き、金雲たなびく雲の間から、冠雪の富士の姿が見える。日本の伝統的な画題として多く描かれてきた三保松原の富士。その伝統を引き継いだ富士の姿がそこにある。ガラスケース越しではなく、直に観ることができるのも、半蔵門ミュージアムならではの鑑賞体験だ。
“お好みの富士”を探す

手前:櫻井孝美《錦秋》油彩 1992年
その他に、日本画では川﨑春彦、岡信孝、木村圭吾、平松礼二、洋画では桜井孝美(たかよし)、野田好子(よしこ)、版画家の笹島喜平の作品が紹介されている。
富士山の麓にアトリエを構える木村圭吾の作品は、繊細な桜の花に囲まれた幻想的な光景が描かれている。どこか特定の場所を描いているようにも思えるが、そうではないという。しかし写実的なリアリティを感じるのは、画家が日々、富士山を身近に感じているからだろう。現実と幻想が交差する夢幻の芳しさが漂う。

一方で、日本画家・川端龍子を祖父に持つ岡信孝は、祖父から「富士は、人格ができてから描くものであり、余り描いてはならない」との教えを受けていたという。龍子にとって、富士はもはや単なるモチーフではなく、もっと大きな存在として画家の前に聳えていたようだ。その強い言葉を受けた岡が描く富士は、何とも清々しく、描かれていない「空気」も澄み渡っていることが感じられる。端的に表された富士の頂が、富士が物理的な「山」ではなく、象徴的なものとして存在していることを物語る。

取材中、突然岡崎氏が「どの富士山が好きですか?」と質問した。岡崎氏は本展を訪れた方によく聞いているそうだ。様々なモチーフと組み合わされた富士。同じ山を描いているのに、同じような作品は1つもない。だからこそ来館者それぞれの“お好みの富士山”を聞くという。

ちなみに筆者は片岡球子と笹島喜平の名を挙げた。片岡球子の富士の魅力は前述の通りだが、笹島喜平の作品は球子と対照的に、モノクロの富士だ。版画は色を付けた版木を紙に押し付ける手法が一般的だが、拓刷りと称した笹島の作品は、紙を版木の凹凸に沿わせ、紙の上にインクを乗せる技法で作られている。そのため作品にはクッキリと彫り跡の凹凸が浮き出ており、その力強いエネルギーに圧倒された。本展を訪れた方は、ぜひともお気に入りの富士山を見つけてほしい。

常設展示で仏教美術の美に迫る

取材時は、《仏涅槃図》(左)が特別に展示されていた。【展示期間:1/17~3/1】
半蔵門ミュージアムは、真如苑が所蔵する仏教美術を一般に公開するために2018年に開館した。地下1階の展示空間では、運慶作と推定されている《大日如来坐像》(重要文化財)や、ガンダーラ仏伝浮彫を常設し、仏像や仏画、経典などを定期的に入れ替えながら展示している。

運慶作と目されているこの大日如来坐像は、同館のコレクションを代表する作品だ。像高約61.6cmの小ぶりな仏像だが、端正な佇まい、水晶で作られた玉眼など、運慶作の仏像の特徴を有しており、充実した作風だ。像全体に施された金箔の保存状態もよく、作られた当時の輝きが想像される。
近くには、像の内部(納入品)を表した模型も展示されている。像内を調べる調査では、耳の穴からボアスコープというカメラを挿入し、内側には金箔が貼られており、五輪塔などが納められていることが明らかとなった。

右足を左ももの上にかけた半跏する姿の如意輪観音像は珍しい。
美術館の2階には、マルチルームにて仏教美術についてのパネル展示を行うほか、3Fのシアターでは解説映像の上映も行っている。
古来、人々の崇敬の念を集めてやまない富士山。その揺るぐことない、堂々たる姿に魅せられた画家たちによる、鮮やかで独創的な「富士山」を、ぜひ半蔵門で眺めてほしい。
- 美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
- 半蔵門ミュージアム|Hanzomon Museum
102-0082 東京都千代田区一番町25
開館時間:10:00〜17:30(最終入館時間 17:00)
休館日:月曜日・火曜日、年末年始