FEATURE

写真史に燦然と輝く名作が集結
写真表現の豊かさに触れる展覧会が、FUJIFILM SQUARE で開催

『フジフイルム・フォトコレクションII』 世界の20世紀写真「人を撮る」が、FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)にて5月16日(木)まで開催

内覧会・記者発表会レポート

『フジフイルム・フォトコレクションII』―世界の20世紀写真「人を撮る」― 展示風景より
『フジフイルム・フォトコレクションII』―世界の20世紀写真「人を撮る」― 展示風景より

内覧会・記者発表会レポート 一覧に戻るFEATURE一覧に戻る

富士フイルムグループ創立90周年を記念したコレクション展『フジフイルム・フォトコレクションII』―世界の20世紀写真「人を撮る」― が、2024年5月16日(木)(最終日は14時まで)までフジフイルム スクエア(東京都港区)にて、開催中である。本展では、20世紀の写真史に功績を残す海外写真家たちの「人」を撮影したオリジナルプリント53点が展示されている。写真誕生における最大の目的となったのは人物撮影とされ、人を撮ることは写真の原点といえる。新たな技法がいくつも生まれた写真史において、「人を撮る」ことは常に人々の関心は傾けられてきた。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
富士フイルムグループ 創立90周年記念コレクション展
『フジフイルム・フォトコレクションII』 世界の20世紀写真「人を撮る」
開催美術館:FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)
開催期間:2024年4月26日(金)〜5月16日(木)

近代写真の父と呼ばれるアルフレッド・スティーグリッツ、政治家や作家、芸術家など数多くの著名人を撮影したユーサフ・カーシュ、水俣病の実態を世界に伝え日本と縁の深いW. ユージン・スミスなど、計20名に上る写真家の充実のラインアップを鑑賞できる。それぞれのまなざしで対象を見つめた写真家たちの視点に迫りたい。

近代写真の到来を告げた、スティーグリッツの一枚

アルフレッド・スティーグリッツは1864年にアメリカ・ニュージャージー州で生まれ、工学を学んだのちに写真家となった。妻は画家のジョージア・オキーフ。

アルフレッド・スティーグリッツ《三等船室, 1907年》Photograph by Alfred Stieglitz
アルフレッド・スティーグリッツ《三等船室, 1907年》Photograph by Alfred Stieglitz

アルフレッド・スティーグリッツの作品の中でも著名で、近代写真を決定づけたとされるのが《三等船室,1907年》だ。客船のファーストクラスに滞在するスティーグリッツから船内の様子を収めた一枚で、人々の関係性、社会の縮図を見せるかのような巧妙な構図となっている。橋、はしごが写真内の空間を分断しており、豊かな構造を備えていることから、キュビスムにも通ずる点があり、パブロ・ピカソが本作を称賛したとも伝えられている。

戦禍を生きたユージン・スミスの子どもを見つめるまなざし

W. ユージン・スミス《楽園への歩み, 1946年》© 1946, 2024 The Heirs of W. Eugene Smith
W. ユージン・スミス《楽園への歩み, 1946年》© 1946, 2024 The Heirs of W. Eugene Smith

アメリカ・カンザス州に1918年に生まれたW. ユージン・スミスは、アマチュア写真家の母から教えを受け、写真家を志すようになる。ニューヨークでフリーランスとして活動したのち、第二次世界大戦時には従軍記者として戦地を撮影し、『ライフ』誌に写真が掲載される。沖縄戦で口蓋に重傷を負い、後遺症を抱えることになる。1971年には熊本県の水俣に住み、水俣病の被害を世界に伝える。

手をつなぎ、奥に広がる光の方へ歩みを進める子どもたち。W. ユージン・スミス自身の子どもたちを撮影した作品である。ヘンゼルとグレーテルをおもわせるような姿で、子どもたちが自らの足で森を歩み、冒険を始めるような高揚感に胸が弾む。フォト・ジャーナリストとして活動したW. ユージン・スミスがとらえた穏やかな風景が、心を和ませてくれる。

強い存在感を放つ、カーシュの重厚なポートレート

本展の大きな見どころの一つが、著名人のポートレートだろう。中でも著名人を数多く撮影したユーサフ・カーシュによる15点のオリジナルプリントは壮観だ。ユーサフ・カーシュは1908年、アルメニアに生まれる。幼少期は難民となり、シリアを経てカナダに渡り叔父の元で働く。19歳で写真家ジョン・ガロのアシスタントとなり、肖像写真家を志す。

展示風景より ユーサフ・カーシュのポートレートの数々
展示風景より ユーサフ・カーシュのポートレートの数々

ウィンストン・チャーチル、アルベルト・アインシュタイン、ヘレン・ケラー、ジャン・シベリウス、パブロ・ピカソ、アーネスト・ヘミングウェイ、ジョージア・オキーフ、ジョアン・ミロ、マルク・シャガール、モハメド・アリなど、政治家から学者、音楽家、画家、スポーツ選手まで、錚々たる顔ぶれが並ぶ。著名な写真も多いため、一度は目にしたことがある、という人もいるだろう。

鮮明で、流麗にプリントされた大判の作品群。いずれの作品も、被写体本人の存在がありありと焼き付けられている。鑑賞者と同じくらい、あるいはより大きく映し出された対象と対峙していると、本人と向き合っているような錯覚に陥る。時を超越し、巨匠たちが生きた世界に没入するような、深淵の見えない奥深さが広がる。

ウィンストン・チャーチルのこちらを睨みつける眼差し。眉間の深い皺、憤然と固く結ばれた口元は、首相の威厳を如実に伝えている。アインシュタインのふとした表情。舌を出した写真が有名だが、何かに気づいたような素朴な素顔に、日常の一端に触れる心地になる。深い感慨に浸るように目を閉じるジャン・シベリウス、マルク・シャガールの夢見るような微笑み、やや身を乗り出してポーズを決めるモハメド・アリの姿もぜひご覧いただきたい。

労働者を蟻のように映し出したサルガドの視点

展示風景より セバスチャン・サルガド《セラペラーダ金鉱山,ブラジル, 1986年》(右)
展示風景より セバスチャン・サルガド《セラペラーダ金鉱山,ブラジル, 1986年》(右)

ユーサフ・カーシュの作品と対照的といえるのが、セバスチャン・サルガドの《セラペラーダ金鉱山,ブラジル,1986年》だ。

本作では、鉱山で働く労働者を俯瞰撮影している。深く掘り下げられた地底で働く人々、梯子を埋め尽くすように地上へ昇る人々、地上でその様子を見守り、働く人々。一枚の写真に、夥しい数の労働者が焼き付けられている。荒い粒子で印画された作品からは、個としての人を到底認識できない。集団としての人の有り様や、蟻のように働き続ける労働を映し出しているように思われる。

セバスチャン・サルガドはブラジル・ミナスジュライス州に1944年に生まれ、幼少期は大自然の中で自給自足に近い暮らしを送ったという。後にマルクス主義を研究し、経済学修士号、博士号を取得している。建築を学ぶ妻の影響で写真を撮り始めた。

作家の豊かな写真表現を堪能する

展示風景より アーノルド・ニューマン《イーゴリ・ストラヴィンスキー,ニューヨーク, 1946年》(右から2番目)
展示風景より アーノルド・ニューマン《イーゴリ・ストラヴィンスキー,ニューヨーク, 1946年》(右から2番目)

アメリカ・ニューヨーク生まれの写真家アーノルド・ニューマンの《イーゴリ・ストラヴィンスキー,ニューヨーク,1946年》は、大胆な構図に魅せられる。漆黒のグランドピアノとその隅でひっそりと肘をつくストラヴィンスキー。白い背景を分つような、ドラマチックな影も利いている。ピアノとピアニスト。両者の存在、関係性が静謐な余白ににじみ出す。アーノルド・ニューマンは、高校時代から絵画を描き、立体派やダダイスムの影響を受けたという。

フランス・パリ出身で、アメリカを拠点に活動した写真家エリオット・アーウィットの作品には、いきいきと躍動する人物の姿を見出すことができる。背後からマリリン・モンローを撮った作品は、衣服の上をやわらかく流れる光が彼女の肉感的な体を伝えている。また、ジョン F.ケネディの険しい表情を押さえた、緊迫感ある一枚も必見だ。

数多くの著名人を撮影した一方で、一般人の喜び、おかしみに満ちた姿も活写している。中でも、自身の妻と子を撮影した作品は穏やかな愛情に満ちている。ベッドに寝そべる幼児に視点を合わせ、愛しそうに見つめる妻の姿、それを見守る猫の影。人物の内面がにじみ出すような、情感豊かな世界が素晴らしい。

展示風景より スティーブ・マッカリーの代表作《シャーバート・グーラー,アフガンの少女,ペシャワール,1984》(左)
展示風景より スティーブ・マッカリーの代表作《シャーバート・グーラー,アフガンの少女,ペシャワール,1984》(左)

1980年代、アフガニスタンの戦禍を世に伝えたことで広く知られるアメリカ・フィラデルフィア出身のスティーブ・マッカリーの代表作《シャーバート・グーラー,アフガンの少女,ペシャワール,1984》も展示されている。本作は1985年に『ナショナル・ジオグラフィック』の表紙を飾り、世界に衝撃を与えた。一度は見たことのある人も多いだろう。不安、怯え、怒り、少女の複雑な内面を映し出す表情。顔を覆う傷んだヒジャブ。一目見ただけで脳裏に焼き付く、強烈なポートレートだ。何度も目にした作品だったが、オリジナルプリントの色は風合いが異なり、少女の眼光はより鮮烈だった。

雄大な自然を見つめ続けたアンセル・アダムス。特集展示も同時開催中

展示風景より アンセル・アダムス《卒業式のドレス,ヨセミテ渓谷,カリフォルニア, 1948年》(左)
展示風景より アンセル・アダムス《卒業式のドレス,ヨセミテ渓谷,カリフォルニア, 1948年》(左)

背の高い松の木に寄り添う、白いドレスを着た若い女性。どこか、松の木も女性に呼応しているようにも見え、結婚式のセレモニーのように微笑ましく、聖性に満ちた空気を感じさせる。黒が深く焼き付けられた松の木と背後の枝葉に対し、白く生える肌、ドレスが美しい。松の表皮のテクスチャー、ドレスの透け感にも目を奪われる。

1902年にアメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコに生まれたアンセル・アダムスは、雄大な自然を撮影し続けた写真家だ。10代の頃、ヨセミテ渓谷を訪れたことをきっかけに写真を撮り始める。

アンセル・アダムス作品展「ポートフォリオIV:偉大なる啓示」展示風景より
アンセル・アダムス作品展「ポートフォリオIV:偉大なる啓示」展示風景より

同じフロアにあるフジフイルム スクエア 写真歴史博物館では、アンセル・アダムス作品展「ポートフォリオIV:偉大なる啓示」が、2024年5月22日(水)(最終日は16時まで)まで開催されている。本展では、アンセル・アダムスが撮影した、ヨセミテ渓谷をはじめ、カリフォルニア、アラスカなどの自然美を鑑賞できる。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
アンセル・アダムス作品展「ポートフォリオIV:偉大なる啓示」
開催美術館:FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)
開催期間:2024年3月28日(木)〜5月22日(水)

ヨセミテ国立公園内の山脈カテドラルピークと麓に広がる静かな湖。カリフォルニア・オセアノにある砂丘の表面を流れる繊細な影。グレイシャーベイ国立公園で撮影された葉脈まで克明に映し出された葉。精緻に映し出された壮観な景色は、鑑賞者の心をほぐし、解放してくれるだろう。

アンセル・アダムス《カテドラルピークと湖, ヨセミテ国立公園, カリフォルニア, 1960年頃》
© The Ansel Adams Publishing Rights Trust
アンセル・アダムス《カテドラルピークと湖, ヨセミテ国立公園, カリフォルニア, 1960年頃》
© The Ansel Adams Publishing Rights Trust

アンセル・アダムスは、「ネガは楽譜であり、プリントは演奏である」という言葉を残したという。写真史に燦然と煌めく海外写真家自身が奏でる名演奏の数々を堪能できるこの度の展覧会。手軽にデジタル写真を撮影でき、類似した色味、風合いの写真があふれる現代において、写真表現の奥深さに触れることができる貴重な機会といえる。また、フジフイルム スクエア 写真歴史博物館では、貴重な写真資料が展示されている。写真術の仕組みや変遷に理解を深めるにも適したスポットだ。コレクション展『フジフイルム・フォトコレクションII』世界の20世紀写真「人を撮る」アンセル・アダムス作品展「ポートフォリオIV:偉大なる啓示」。同時に堪能できるこの機会をお見逃しなく。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)|FUJIFILM SQUARE
107-0052 東京都港区赤坂9-7-3
開館時間:10:00〜19:00(最終入館時間 18:50)
休館日:会期中無休

FEATURE一覧に戻る内覧会・記者発表会レポート 一覧に戻る

FEATURE一覧に戻る内覧会・記者発表会レポート 一覧に戻る