FEATURE

「集める」ことの好奇心・探求心から始まる。
「博覧」をテーマにした、超マニアック!な展覧会

「博覧 -近代京都の集め見せる力-」が龍谷大学 龍谷ミュージアムにて開催中

内覧会・記者発表会レポート

龍谷大学 龍谷ミュージアム「博覧」展 会場風景
龍谷大学 龍谷ミュージアム「博覧」展 会場風景

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構成・文 小林春日

日本の最初の展覧会というと、東京国立博物館の誕生のきっかけともなった、1872年(明治5年)3月10日から湯島聖堂で開催された、文部省による初めての博覧会が知られている。この「湯島聖堂大成殿」において行われた博覧会は20日間の会期が予定され、午前9時から午後4時までの開館時間が設けられていたが、大変な人気を博し、1か月ほど会期を延長せざるを得なかったという。

元昌平坂二於テ博覧会諸人群集之図 昇斎一景 画(会場風景より)
湯島聖堂大成殿(東京)を会場として行われた、博覧会の会場内の様子である。会場には多くの見物人が詰めかけ、展示品を眺めている。中央には名古屋城の金鯱が見える。
元昌平坂二於テ博覧会諸人群集之図 昇斎一景 画(会場風景より)
湯島聖堂大成殿(東京)を会場として行われた、博覧会の会場内の様子である。会場には多くの見物人が詰めかけ、展示品を眺めている。中央には名古屋城の金鯱が見える。

しかし、これよりさらに前年に遡る1871年(明治4年)10月10日から京都・西本願寺にて、「京都博覧会」が開催されており、日本初の博覧会として位置づけられている。現在、龍谷大学 龍谷ミュージアムでは、「博覧」をテーマに、一般初公開約60点を含む、約200点の資料(内、重要文化財2点)によって、全4章構成の展覧会が開催されている。

本展の第1章では、日本初の博覧会と称された「京都博覧会」を紹介するほか、第2章では、拝観者数30万人を超えた大規模な展覧会となった「西本願寺蒐覧会(しゅうらんかい)」、第3章では、僧侶の中井玄道が開設した、仏教を児童に伝えるための博物館「仏教児童博物館」、第4章では、日本の貝類学の基礎を築いた一人、平瀬與一郎が開館した貝類専門の博物館「平瀬貝類博物館」を取り上げるという、何ともマニアックな展覧会となっている。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「博覧 -近代京都の集め見せる力-」
初期京都博覧会・西本願寺蒐覧会・仏教児童博物館・平瀬貝類博物館
開催美術館:龍谷大学 龍谷ミュージアム
開催期間:2022年9月17日(土)~11月23日(水・祝)

本展は、このような問いかけから始まる。
「幼い頃、夢中になって小石や貝殻、切手やコインを集め、そのコレクションを友人と見せ合い、楽しんだ記憶はありませんか?
その思いは好奇心や満足感から、時には探究心へと膨らんでいくこともあります。」

龍谷大学 龍谷ミュージアム「博覧」展 会場風景より
展覧会導入部分には、個人の方々による、水晶、翡翠、黒曜石、怪獣類(ソフビ人形)、土器など、それぞれに思いをもって集められたものが展示されている。
龍谷大学 龍谷ミュージアム「博覧」展 会場風景より
展覧会導入部分には、個人の方々による、水晶、翡翠、黒曜石、怪獣類(ソフビ人形)、土器など、それぞれに思いをもって集められたものが展示されている。

現在では、各地に美術館や博物館が存在し、当たり前のように誰もが、展示された作品や物を好きなように鑑賞することができる。しかし、日本では今から約150年ほど前に初めて、「集められたもの」が展示された博覧会が開催され、人々がそれに観覧料を払って観覧するという機会が出現した。会場に集められ、陳列されたものを観たいと願う人々の関心の高さや好奇心の強さが明らかになった機会でもあった。

初期の博覧会と西本願寺。
古写真が伝える、「京都博覧会」と「西本願寺蒐覧会」の光景

龍谷大学 龍谷ミュージアム「博覧」展 会場風景
龍谷大学 龍谷ミュージアム「博覧」展 会場風景

第1章、第2章では、当時、まだ着物姿で博覧会会場に集まる人々の熱気が伝わってくる写真が、拡大パネルとともに、細部の説明と合わせて展示されている。本展を担当する学芸員 和田秀寿氏が、それらの写真をくまなく眺めて調べたところから、同じ場面でも写真ごとの撮影日の違いに気が付いたり、別々の写真に写る同一人物を発見したり、ときには当時の気象観測データを取り寄せるなどして、撮影された日付や天気や気温まで推測するなど、写真や挿絵から多くのことを読み解き、紹介しているエピソードが面白い。

第1回京都博覧会(西本願寺会場)会場写真 明治5年 『The Far East』 Vol.Ⅲ No.8 1872.9.16 同志社大学図書館
第1回京都博覧会(西本願寺会場)会場写真 明治5年 『The Far East』 Vol.Ⅲ No.8 1872.9.16 同志社大学図書館

第1回京都博覧会の会場となった、西本願寺の写真には、目録の販売をしている人、受付に座る人、監視員らしき人、入場していく観覧者らが見られる。左手前の菅笠をかぶった男性は、市田写真館のカメラマンのようで、「フォトグラファー市田」とゼッケンにかかれているそうだ。この「フォトグラファー市田」のゼッケンをつけた人は、京都で撮影された他の古写真にも見られたという。

第1回京都博覧会(西本願寺会場)会場写真 明治5年 『The Far East』 Vol.Ⅲ No.8 1872.9.16 同志社大学図書館

会期延長が決定し「日のべ」の看板がかかげられた

第1回の博覧会の展示会場には、雨に祟られて入館者が少なかったため、会期の延長を国に届け出て、その許可が得られる。この写真には、その延長された際の「日のべ」という看板が入口左側の柱に掲げれており、明治5年4月2日以降のものだと分かる。しかし別の写真には、「日のべ」の看板がなく、この写真より古い日付ものである、といった時系列が古写真の記録によって分かってくる。

現在開催中の「博覧 -近代京都の集め見せる力-」の会場である、龍谷大学 龍谷ミュージアムは、龍谷大学の創立370周年事業の一環として2011年に開館した「仏教総合博物館」である。その龍谷大学は、1639年に西本願寺に設けられた「学寮」にはじまり、いまに至る長い歴史を持つ。西本願寺は、鎌倉中期に浄土真宗を開いた僧侶・親鸞を宗祖とする浄土真宗本願寺派の本山であり、龍谷ミュージアムはその西本願寺の真向かいに位置している。

龍谷ミュージアム外観正面
龍谷ミュージアム外観正面
西本願寺(京都市下京区堀川通花屋町下る本願寺門前町)
西本願寺(京都市下京区堀川通花屋町下る本願寺門前町)

西本願寺にも、親鸞聖人自筆の著述や影像等の法宝物、建造物など、宗教的にも歴史的にも価値の高い重要な文化財が数多くある。歴史的名建築物でもあり、豪壮華麗な桃山文化を彷彿とさせる飛雲閣や対面所、白書院などの国宝や重要文化財の数々があり、平成6年(1994)には世界文化遺産にも登録されている。

その西本願寺は、第1章で紹介の「京都博覧会」、および第2章で紹介の「西本願寺蒐覧会」の会場ともなっている。「京都博覧会」は1871年の開催後、昭和初期まで継続して行われるが、今回の展覧会では、明治4年と5年の博覧会を中心に紹介している。

第2章の「西本願寺蒐覧会」は、江戸時代から引き継がれた「法宝物拝観」を発展させたもので、み教えを広めていくための「蒐集会」として、明治8年から継続的に5回、西本願寺で開催された。その様子を古い記録や写真、そして展示法宝物を中心に紹介している。

特に見どころは、明治8年の「西本願寺蒐覧会」ではじめて一般公開された、明治天皇より拝領の「銀製孔雀置物」の再展示である。

龍谷大学 龍谷ミュージアム「博覧」展 会場風景より
銀製孔雀置物 明治5年 西本願寺
龍谷大学 龍谷ミュージアム「博覧」展 会場風景より
銀製孔雀置物 明治5年 西本願寺

一枚の板を叩いて加工(鍛金)し、孔雀の頭と胴体を作り上げている。また、細かい羽根の文様を鏨(たがね)で加飾(彫金)しており、特に飾り羽は一本一本、緻密な加工を施し留めている。

担当学芸員の和田氏が、京都の銀細工の専門技師に聞いたところによると、非常に精巧な細工で、とても手の込んだつくりで、特に雄の孔雀を見上げる、雌の孔雀の首の位置、雄を慕うような目で見ているその絶妙な角度や表情は、非常に難しい細工であり、銀師の技と感性が感じ取れる、との評を得ている。

銀製孔雀置物(部分) 明治5年 西本願寺
銀製孔雀置物(部分) 明治5年 西本願寺

日米親善活動から発展。
僧侶 中井玄道によって昭和6年に開館した「仏教児童博物館」

第3章では、僧侶、中井玄道によって、仏教を児童に伝えるために昭和3年に開設した「仏教児童博物館」を紹介している。

集合写真(仏教児童博物館玄関前) 昭和13年頃 志水雅明
児童博物館には、様々なクラブがあり、そのクラブの一つではないかと考えられる。
集合写真(仏教児童博物館玄関前) 昭和13年頃 志水雅明
児童博物館には、様々なクラブがあり、そのクラブの一つではないかと考えられる。

当初、龍谷大学図書館の建物内に開設し、その後、独立施設となり、50年以上の長きに渡って継続した。仏教児童博物館の活動期間は約20年ほどであったが、欧米の「子どもの博物館」活動を参考にしながら開設された博物館は、当時としては画期的であった。

龍谷大学 龍谷ミュージアム「博覧」展 会場風景より
本展では、アメリカのニュアークミュージアム「Children in Japan」展で行われたワークショップ「雛祭り」の写真が紹介されている。日本の雛祭りを通して、日本の文化を体験する体験学習会であった。
龍谷大学 龍谷ミュージアム「博覧」展 会場風景より
本展では、アメリカのニュアークミュージアム「Children in Japan」展で行われたワークショップ「雛祭り」の写真が紹介されている。日本の雛祭りを通して、日本の文化を体験する体験学習会であった。

昭和初期、アメリカで排日運動が激化する中で、アメリカ・ボストン在住のシャーウッドが、日米間の友好を図りたいと考え、日本から雛人形を贈って欲しいと、中井玄道のもとに手紙を送る。それを受けて、中井玄道は即、雛人形をシャーウッドに贈り届ける。その返礼品として、人形の数々のほか、アメリカの子供たちの描いた絵や冊子、教科書が送られてきて、日本からもまた同様のものを返礼品として送る、といった交流が続いた。その手紙を機縁として、日米親善活動が進み、「仏教児童博物館」構想へと発展していった。シャーウッドはその後も中井と交流を続け、アメリカの博物館や児童との交流のパイプ役となった。

返礼人形 昭和初期 日野芳文・龍谷大学図書館
(左から)ワシントン大統領、インディアン酋長マサソイト、リンカーン大統領
返礼人形 昭和初期 日野芳文・龍谷大学図書館
(左から)ワシントン大統領、インディアン酋長マサソイト、リンカーン大統領

中井玄道については、本展でも図録でも、その生い立ちなどを卒業証書、卒業論文や写真なども含めて、詳しく紹介している。

龍谷大学の前身の一つ、本願寺文学寮の集合写真(下記写真左)には、知恩院で撮影された凛々しい姿の学生たちが写っているが、中井玄道(最前列写真中央)のほか、その隣には、同級生であったカルピスの創設者、三島海雲(かいうん)(最前列右端)の姿も見られる。

(写真左)文学寮高等科の卒業記念の集合写真(知恩院 明治31年6月13日)。卒業生のほかにも関連学生が写る。知恩院「等象斎介石上人碑」の前にて撮影(写真右)中井玄道肖像写真 明治36年 正福寺
(写真左)文学寮高等科の卒業記念の集合写真(知恩院 明治31年6月13日)。卒業生のほかにも関連学生が写る。知恩院「等象斎介石上人碑」の前にて撮影(写真右)中井玄道肖像写真 明治36年 正福寺

貝類専門という珍しい博物館、「平瀬貝類博物館」が大正2年に開館

(写真左)平瀬貝類博物館全景 大正4年 『平瀬貝類博物館写真帖』 多田昭 
(写真右)平瀬與一郎肖像写真 明治時代 西宮市貝類館
(写真左)平瀬貝類博物館全景 大正4年 『平瀬貝類博物館写真帖』 多田昭
(写真右)平瀬與一郎肖像写真 明治時代 西宮市貝類館

第4章では、平瀬與一郎(ひらせよいちろう)が開館した、貝類専門の博物館「平瀬貝類博物館」を紹介している。平瀬は、民間の研究者でありながら、日本の貝類学の基礎を築いた一人である。日本各地や中国、台湾に貝類の採集者を派遣し、集めた貝の標本を分類・整理し、大正2年に京都に「平瀬貝類博物館」を開館した。

(画像右上)「貝類各書彙図説」 明治31年(1898)たつの市教育委員会
(画像左上)「百貝螺譜図」 明治29年(1896)たつの市教育委員会
(画像下)「日本貝類目録」 明治32年(1899)たつの市教育委員会
(画像右上)「貝類各書彙図説」 明治31年(1898)たつの市教育委員会
(画像左上)「百貝螺譜図」 明治29年(1896)たつの市教育委員会
(画像下)「日本貝類目録」 明治32年(1899)たつの市教育委員会

当時の展示資料からは、博物学者 大上宇市(おおうえういち 1865-1941)氏の編著の書物があり、「貝類各書彙図説」には約800種にも及ぶ貝類が描かれていたり、「百貝螺譜図」には、多くの文献を精読して図を写し取り、生育地、特性、形態などを丹念に記載している。これらの書物は、貝類の検索図書として、誰が見てもわかる図鑑として編纂された。

龍谷大学 龍谷ミュージアム「博覧」展 会場風景より 貝類標本(蒔絵函入) 明治~大正時代 西宮市貝類館
龍谷大学 龍谷ミュージアム「博覧」展 会場風景より 貝類標本(蒔絵函入) 明治~大正時代 西宮市貝類館

平瀬は、貝類標本(蒔絵函入)を販売するなど、博物館の運営・存続のために奮闘していたが、赤字がかさみ、「平瀬貝類博物館」は6年で閉館に追い込まれてしまう。この時期、第一次世界大戦の勃発で、日本は経済発展とともにインフレが起こり、各地で物価の高騰が顕著であり、館運営に伴う予測収支の誤算が少なからずあったと推測される。

「博覧」にかける、先人たちの熱い思いに迫りたい

本展では、明治から昭和戦前期にかけて、蒐集し、展覧した人たちの情熱とそれを鑑賞した人々の熱意や関心が伺える、「博覧」をテーマにした興味深い展覧会である。

博物館活動の生命線と言える、資料をいかに収集し、保存していくか。そしてそれらの資料や研究成果の発表の場としての展示にいかなる工夫が凝らされ、知恵がしぼられてきたか。「博覧」の初期の歴史から紐解き、先人たちの熱い思いに迫りたい、そんな思いで企画された本展にも、「蒐集」「研究」「展示」への熱い思いが感じ取れる。ぜひ会場で、本展を通じて「博覧」にかける熱い思いを感じとってみてほしい。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
龍谷大学 龍谷ミュージアム|Ryukoku Museum
600-8399 京都府京都市下京区堀川通正面下る(西本願寺前)
開館時間:10:00〜17:00(最終入館時間 16:30)
定休日:毎週月曜日 ※月曜日が祝日の場合は開館(翌日は閉館)

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